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数学の力
~ものづくりの哲学~
独立時計師ということばを聞いたことがありますか?
企業に属さず個人で時計を作る職人です。スイスに独立時計師協会という団体があり,私も2013 年から正会員として所属しています。協会には,様々な国籍の会員が約30 名ほど所属しており,それぞれの時計師が独自の世界観や哲学をもって,大量生産品の時計とは一味ちがった魅力のある時計を作っています。
時計作りに役に立っている工作機械の1 つが彫刻機です。彫刻機とは,小さいものを削けずるための機械です。現在では,コンピュータ制御で刃物を動かす彫刻機や刃物を使わないレーザー彫刻機などが登場しています。しかし,私が使っている彫刻機は旧式のもので,文字や模様の原図をなぞると,それらを縮小して彫刻します。作りたい部品の拡大した原図を機械にセットして,自分の手で原図をなぞるようにアームを動かすことで回転する刃物が材料を削っていきます。
なぜ古い機械を使うかというと,五感を働かせて「ものづくり」をしたいからです。自動の彫刻機は便利ですが,部品1 つを作る一瞬一瞬に自分が関わって制作する方が,作り手もそれを手にする人も喜びを感じられると思っているからです。
彫刻機が相似な形を彫刻できるしくみの要はパンタグラフです。パンタグラフとは,三角形の比と相似を応用した製図用具で,今から約400 年前に発明されました。1800 年代前半には,彫刻機として実用化されて時計作りにも使われていたようです。
私は学生時代,数学が苦手で,数学を学ぶことが何の役に立つのかわかっていませんでした。しかし,現在,私の時計作りの大きな助けとなっている機械が,相似を応用したものだと知り,数学の知識を応用して,便利なものや新しいものを生み出すことも,数学の一部なのだと思いました。
みなさんが興味や関心をもっていることにもきっと数学が関わっていますよ。